神戸新聞 2007年7月30日(火曜日)夕刊 随想 6

衝動と方法

大阪アウトドアスクールの校長でアーチストの二名好日さんが2002年新緑の頃、私を無人島に連れて行ってくれました。広場の周りに木々が茂り、グリーンのドームのような木漏れ日のすばらしい場所の奥まった高い枝から葛のツルが垂れ下がっていました。私はその美しさに心を打たれました。
 私の表現活動は絵画が全ての始まりで、学生の頃は日本画を学んでおりました。しかしそれから久しく立体や写真や版画などをして描く事から離れていましたのに、その葛のツルが垂れ下がる美しい光景を見て私は描きたい衝動に駆られました。その方法も完成予想のイメージもその時連なりのように描きたい世界が立ち上ってゆき、私は実行に移しました。
 私はその光景をスケッチし撮影した後その葛を持ち帰りました。帰り路、押し花をしている友達に植物の乾燥と色の保存について教えてもらい、薬品会社に電話をして乾燥剤を買いました。帰宅して私は葛を乾燥させ、葛をツル、葉、花など場所や色毎に分けました。そしてそれらを乳鉢などで粉状にし、葛の各色を持った粉を数種類作りました。
 日本画は顔料という絵の具の粉と膠を使って描きます。私は葛のツルを葛から作った粉と膠で描きました。無人島で出会ったかけがいのないあの心を打った葛のツルを描くのに、画材屋さんで売っている何の関係もない色の粉や絵の具を使うのではなく、私を感動させたあの葛そのもので描く事が、私が描きたいという衝動に唯一答える行為と思えました。
私はクマのぬいぐるみ、衣類、家具、動物と描く事になります。マテリアルカラーズという作品のシリーズがはじまりました。
-そのモノたちは、すでにそこになくなり、しかしそれについて語る伝達者となった。-
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by yurishibata | 2007-08-01 10:10
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